僕が観た夢 彼女が観た景色

オレンジランプが書き綴る不定期連載のオリジナル小説です。

僕が見た夢彼女が観た景色 3

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毎日、仕事、仕事、仕事。仕事が終わると、お弁当を買って、自宅のアパートで一人食べる。彼女とも遠距離で上手くいってない。そんな、栫優一(カコイユウイチ)の奮闘を書いています。

 

夜が明けた。そしていつもの朝。

 

登場人物

 

栫優一 (カコイユウイチ)会社員 26歳 生まれ育った街を遠く離れて奔走する青年。

木島久美子 (キジマクミコ)会社員 27歳 優一の恋人

 

 

 僕はスマホの目覚ましの音で目を覚ますと、急いでシャワーを浴びて昨日脱ぎ散らかしていた作業着をそのまま来た。

冷蔵庫の中からコーヒーの紙パックを取り出してコップに注いだ。

 

コーヒーは残りわずか・・・。

 

近所のスーパーで、賞味期限切れ間近の2割引きでいつも買ってくるこのコーヒーだけどもう飽き飽きしていた。

 

買いに行くのも、これを飲むのも。

 

でも、また買うのだろう。

 

いつもの事だ。

 

こんな生活になってしまって僕は、変化を望まなくなった。この街に来たときはワクワクしていて歩いてアパートの近所を歩き回った。

 

今までと違う風景と風の温度に少し興奮した。

 

そして、もっと行動範囲を広げようと思って自転車を買った。

 

行動範囲はグッと広がって、休みの日はずいぶんと遠くへと自転車を漕いで出かけた。

 

でも、半年前から急に仕事が忙しくなり自転車にも乗れなくなった。スーパーは歩いていくには少し遠いので自転車じゃないと行く気がしなくなっていた。

 

ある日の夜。

 

たまたま少し早く帰ってこれたので、自転車に乗ってスーパーに買い物に行こうと思った。自宅に荷物を放り投げて自転車の鍵を手に取り階段を駆け下りてアパートの下にある駐輪場に向かった。

 

でも、そこにはホームセンターで2万円位で買った僕の赤い自転車は無かった。いつも端っこの壁にもたれかけて置いてた僕の自転車。

 

いつもの場所にあの赤い自転車は無かった。呆然としながらもその付近をしばらく探したけれど僕の赤い自転車は見付からなかった。

 

盗まれたのだろうと思った。

 

警察に連絡して被害届を出して色々調べてもらったけれど今だに見つかっていない。

徒歩よりも行動範囲を拡げようと思って買った自転車。

 

僕が変化を求めたから買った赤い自転車。

 

盗まれたのだろうから、盗んだ奴が悪いのに僕は自転車に申し訳ないと自分を責めた。僕が悪いんだと。

 

仕事が忙しくて中々乗れなかったから。大事にしてあげなかったから。だから盗まれたんだと自分を責めた。

 

それから、僕は変化を望まなくなった。

 

帰り道も弁当も飲み物も。いつも一緒だ。

 

今の仕事の環境も自分の将来も変化は望まない。受け入れるだけだ。僕はただ良い人ぶって、流れに身をゆだねて流れるだけだ。不満もあるし、不快な思いもするだろうけど、自分からは動かない。

 

もう、自分から動いて変化を求めて悲しい思いや失敗をすることは嫌だから・・・。

 

変化を望んで嫌な思いをするのはもうこりごりだ。昔からそうだった。

 

僕には昔、高校三年間付き合った彼女が居た。高校卒業間近になって僕は彼女との関係に変化を求めた。折角の高校3年間をこの女性一人の為に捧げるのは勿体無いと思ったのかもしれない。

 

マンネリだった彼女との関係に終止符をうとうと僕は彼女に別れを告げた。

 

電話口で彼女は『私の事嫌いになったの?』

と泣きじゃくった。僕は『そうじゃないけど・・・。』と言い『元気でね。』と言い残して電話を切った。

 

次の日の学校は憂鬱だった。顔をあわす友人達は口々に『彼女となぜ別れたんだ』と訊かれた。

 

誰にも言ってなかったのに学校中に噂が広がっていた。

 

特に理由はなかった。いつもと同じ生活が嫌になっただけだと思う。

 

彼女の事が嫌いになったわけでもなかった。

 

僕はきっと変化が欲しかったんだ。

 

男友達も女友達も関係無く僕は責められた。自分勝手だ。一方的すぎると。

 

誰にも訳は言ってないのに。

 

ほっといてくれと思ったけれど、学校中の話題は僕たちの事で持ちきりだった。

 

3年間付き合ってた二人が別れた。このまま結婚するかと思ってた二人が別れた。

 

同学年も下級生も噂をしていた。

 

なにか大きな問題があったに決まっていると。

 

大きな問題?

 

そんなの無かった。

 

別れの時の彼女は間違いなく、まだ僕に僕に好意を持っていたし、僕も彼女を嫌いになった訳じゃなかった。

 

別れた原因はひとつ。

 

僕が変化を求めたからだった。

 

あの別れを告げた電話以来、彼女の姿は学校になかった。仲が良かった彼女の母親からもスマホに電話があり激しく叱責された。

 

『娘が何かしたのか』と。

 

『いや別に・・・。』そう答えるのが精一杯だった。

 

彼女の母親は『高校生になってまであなたの恋愛ごっこにうちの娘を巻き込まないで!あの子をあんなに傷付けて!私はあなたを絶対に許さないから。』彼女の母は一気に捲し立てた。

 

『すみませんでした。』こう言うことが精一杯だった僕は、震える指で電話を切った。

 

自分の親にも学校の先生達にも滅多に怒られないのに・・・。

 

この時久しぶりに大人に本気で怒られた。

 

今あの時を思い出して考えると僕はきっと、彼女を取っ替え引っ替え付き合っては別れるを繰り返す友人が羨ましかったのかもしれないと思った。

 

別に不幸では無かったのに満たされていると言う環境に僕は変化を求めて、そして、最悪になった。

 

僕は別れた後も彼女を愛してた。夜中に何度も何度も会いに行った。電話もした。メールも数えくれないくらい送った。

 

そして、彼女の母親に『もう二度とあの子に関わらないで。あの子をこれ以上悲しませないで。不幸にしないで!』と言われた。

 

僕と関わると彼女は不幸になる。・・・。確かにそうだと思った。自分勝手な考えから別れを告げて、自分勝手によりを戻そうとしている。

 

僕は打ちのめされた。僕は自分勝手な人間なんだ。こんな自分勝手な人間と関わると不幸になる。

 

僕は部屋に籠った。家族にも申し訳無く思い会えなくなった。

 

大学進学を控えていたけど、勉強も手に付かず、結局志望校は2ランクも3ランクも落とした。

 

何とか合格して大学生にはなれたけど、浮かれる気分にはなれなかった。

 

彼女は僕が受ける筈だった大学に合格したと聞いた。僕が通うことになる大学よりも2ランクも3ランクも上の大学だ。

 

『おめでとう。頑張ったね。』そう言いたかったけど、止めた。僕と関わると不幸になるから・・・。

 

こんな事があったから大学も4年間は地獄だった。

 

本来自分はここに居るべき人間じゃないんだと言う思いもあったかもしれない。編入しようかと思ったけど、あの時に変化は求めないと決めたんだ。

 

だからただ流れに身を任せて、時間が過ぎるのを待ち、社会人になった。

 

彼女を作る気になんかなれなかった。久美子に出逢うまでは・・・。

 

こんな事を考えると無性に久美子の声が聞きたくなった。今夜こそ久美子に自分から連絡しよう。

 

そして謝ろう。

 

『今までゴメン』と。

 

僕は久しぶりに気分よく自宅アパートを出た。

 

『よし! 頑張ろう。』そう言いながら。

 

読んでいただいてありがとうございます。

 

その4に続きます。

 

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