僕が観た夢 彼女が観た景色

オレンジランプが書き綴る不定期連載のオリジナル小説です。

僕が見た夢 彼女が観た景色 4

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昨夜早めに寝たからか久美子との事にフッ切れがついたからか、この日は、いつもより気分良く現場事務所に辿り着くことが出来た。

 

今日は何事もなければ良いな・・・。

 

登場人物

 

栫優一 (カコイユウイチ)会社員 26歳 生まれ育った街を遠く離れて奔走する青年。

木島久美子 (キジマクミコ)会社員 27歳 優一の恋人

 

そう思ったのも束の間、現場事務所に入ると床一面にFAX用紙の山が出来ていた。

 

昨日、帰る時に鳴り響いた電話の音はこれだったのかもしれない。それにしてもすごい量だ。

 

 

でも、初めての事じゃない。

 

これはきっと、近隣住民からの苦情のFAX用紙の山に違いない。この前もそうだった。

 

先の大災害で倒壊寸前のこのビルだけどまだ入居者との折り合いが付かずに、復旧工事をするのか、立て替え工事をするのか未だに決まってなかった。

 

いい加減にしろ❗工事うるさい❗今すぐ壊せ❗

 

FAXの内容は大体そんな感じだった。そんな事を言われても僕は只のシステムエンジニア。建築会社の1部門の一人に過ぎない。

 

まあ、報告はするけど、、、。

 

入居者との話し合いも本社の担当部署と弁護事務所が掛け合っているらしいけど、うちの会社と入居者の意見は平行線のまま一向に進展の兆しすら見えないらしい。

 

それはそうだろう。

 

例え、天災が原因だと言え、誰も余計な出費をしたくない。

 

でも、この大きな箱が機能しないことには、その箱の電気、空調等の管理をするシステムの構築が僕の仕事なので、いつ本来の僕も仕事が始まるのかも、終わるのかも分からない。

 

今は、現場の良いように使われる便利屋というか、コマ使いになっている。

 

みんながやりたくない役回りや仕事が僕のところに廻ってくる。

 

まるで糸が切れた凧のような日々。

 

これといった仕事と言えば現場に居る作業員のご機嫌とりと苦情を聞くこと。

 

はぁ~。

 

この日初めての溜め息が出た。

 

ここに来て何回目だろう。自分がドンドン辛気くさくなっていく。

 

さっきまでの爽快な気分もどこかに行ってしまった。

 

僕はいつも通りに目の前にある懸案事項を片付けることにした。FAX用紙の山を片付けながら溜め息がまたひとつ。

 

その時、スマホの着信音が鳴った。

 

メールだ。

 

FAX用紙を無理やりゴミ箱に入れてスマホを手に取った。

 

画面に目をやるとメールの相手は久美子だった。

 

やられた~。

 

さっきまでは、久美子に朝一番で謝まろうと思ってたのに、FAXの件で完全に後手に廻ってしまった。

 

『どんな時だって連絡とるのは私からばっかりなんだね。優君は私のことどう思っているのかな。』久美子から来たメールの内容はこんな感じだった。

 

『いつもごめん。久美子の事は大事にしたいし、いつも一緒に居たいと思っているよ。ただ・・・』僕は久美子にメールの返信を打ちながら、いつもの様に言い訳がましい自分に少し苛立ちを覚えた。

 

『ただ・・・。日々の生活に追われてて、心に余裕が出来なかった。ごめんね。』これが今の精一杯だった。

 

久美子にメールを返信した後は、もう一つの優先事項の健康診断の受診先の検索を行った。

 

数件の総合病院に連絡をすると明日の午前中から早速、健康診断の受診の予約が取れた。病院は嫌いだけど、僕が健康診断を受診しない事で色んな人に迷惑がかかるので、これも業務として素直に受診することにしよう。

 

健康にもそろそろ気を付けないとなぁ。独り暮らしを初めてからと言うもの食事も栄養が片寄っているし、ストレスもここのところはかかっているだろう。

 

僕は、この日は早々に仕事を片付けて明日の健康診断に備えることにした。

 

夜8時以降はお水とお茶以外は口にしちゃいけないらしい。

 

夜中にお腹が空いたら嫌だから今夜は早く寝よう。この日は、日課の弁当屋に寄る事もなく、真っ直ぐ家に帰り、寝ることにした。

 

『おやすみなさい』僕は誰も居ない部屋で挨拶をして目を閉じた。今日と言う日ともこれでさよならだ。